今回の日産の件に関する一会計士の考察②
さて、日産のゴーン元会長に関する疑惑の残り二つのうちの一つについてです。
②会社資金の私的流用
これは既に記事になっているように、海外子会社に自宅として海外の高級住宅を購入させていたことが主な内容だと思います。
これが会計監査で見つけられないか?
答えとしてはかなり難しいのではないかと考えます。
大きな企業グループの会計監査を行うとしましょう。
ここでは持株会社があってその下にグループ企業として子会社や孫会社が何十社もあると仮定します。
現在は連結会計が主ですので、会計監査人は持株会社の会計監査を行っただけでは企業グループ全体の連結決算の妥当性について意見を表明することはできません。
当然、子会社や孫会社の会計監査を行い、企業グループとしての連結決算の妥当性をチェックする必要がありますが、何十社あるグループ企業全ての会計監査を行うことは監査資源的(時間・人員・予算)に無理です。
そのため、会計監査ではリスクアプローチという手法をとります。
重要性の高い子会社等を「重要な拠点」として選定し監査の対象とします。
(なお、例えば内部統制監査(決算・財務報告プロセス)では連結ベースの売上高等の一定割合(おおむね2/3)に達するまでの事業拠点(子会社)を評価対象とする、という基準があります。)
リスクアプローチというのは、簡単に言えばリスクが高いと思われるところについて重点的に監査手続きを行うというものです。
例えば、会議の時間が1時間しかとれない、でも議題は10個もあって1時間じゃ終わらない。この場合どうしますか?
重要性の高い議題から話し合い、1時間のうちに議題をすすめるだけすすめる。重要じゃない議題はパスする。
きっとこうなるでしょう。これを会計監査に当てはめたのがリスクアプローチです。
グループ企業についても、リスクが高い子会社、高くない子会社に分けられるはずです。
では何をもってリスクが高いと判断されるのか・・・
一般的には売上です。
財務諸表を見られる方も、損益計算書のどこを最初に見ますか?
最終利益である当期純利益を最初に見るという方もいるかと思いますが、気になるのはやはり売上高ではないでしょうか。前期と比べて売上が減ったとか、売上が5期比較で上昇基調にあるとか、投資家も経営者も我々会計士も気になるのが売上です。
そうです、なので売上にはリスクがあると判断されるのです。
経営者が不正する可能性が高いのが売上です。
リスクアプローチにせよ内部統制の基準にせよ、売上の多寡で会計監査を行うのか判断するのが基本となります。
もちろん、売上以外でリスクが発見されれば、それに応じて監査対象を選ぶことがあります。
日産の話に戻ります。
日産が海外に子会社を設立しました。新聞の記事によると、この子会社、営業活動は全くやっていなかったそうな。
そうなると売上が計上されない→重要性がない→監査の対象外となる、という図式になります。
監査の対象外になると、余程のことがない限り細かい手続きは行われません。重要性が低い子会社等に対して細かい監査手続きをするのであれば、もっともっと重要性の高い子会社等に対して監査手続きをやるべきだからです。
そうなると今回の日産の海外子会社もおそらく、重要な拠点ではなかったと思われます。
そうなると今回の日産のケースでは会計監査人がこの会社に監査手続きを行っておらず、発見するのは難しかったのではないでしょうか・・・
と、考察①・②でも会計監査人が今回の事案を見つけるのは難しい旨を書きました。
一般投資家からしたら、監査人何やってるんだ!という思いがあるのは重々承知しています。
が、会計監査には限界があります。警察のような強制捜査や調査ができるわけでもなく、正直巧みに会計操作されたら発見が難しい面があります。
よく言われますが、会計監査の目的は不正を発見することではありません。
グループの売上高が6兆近くある日産で、20億・30億の不正があっても財務諸表への影響はそれほど大きくないと判断せざるをえません、あくまで監査上はですが。
社会的には影響は大きいですが。
自分も株で投資を行っているので投資家さんの気持ちもわかります。
でも、会計士としての立場から言うと、会計監査には限界がある、ということだけは理解していただきたいです。
今後、会計監査にAIが導入されれば、このような状況は変わるでしょう。
※11月26日の日経夕刊に、問題となっている海外子会社について監査法人が懸念を示していた旨の記事が出ていました。監査法人も気にはしていたんですね。