今回の日産の件に関する一会計士の考察③

今日の夜から寒くなるみたいですね、あーやだやだ。

と言いつつも、夏より冬の方が好きです。

 

さて、今回の日産の事件に関する3点目です。

 

③ゴーン氏による経費の私的支出

自分がTVや新聞等から得ている情報では、この件に関する情報があまりない気がします。

ゴーン氏の私的損失(17億円)を日産に転嫁していたという記事が出ていましたが、これが私的支出ということなのでしょうかね。

今回はこの私的損失の転嫁ということで話をすすめていきます。

 

ぶっちゃけ、この私的支出については、どのような手口で行われたのかが全くわからないため、非常にコメントしづらいです。

会社が被害を被っているというのであれば、何かしらの仕訳がきられていたと思いますので、発見できる可能性はあったと思いますが、仕訳の内容によって発見可能性が変わってきます。

話をものすごーく単純化して以下の仕訳をきったとしましょう。

例①

<借方>役員報酬 1,700,000,000円 / <貸方>現預金 1,700,000,000円

    (摘要)役員15人分報酬支払

例②

<借方>消耗品費 1,700,000,000円 / <貸方>現預金 1,700,000,000円

    (摘要)消耗品購入

 

上記の2つの仕訳をみてどう思いますか?

ここの会社は役員報酬が高額だ(1人1億円程度)、という認識があったとしたら例①の仕訳はそんなにはおかしくないように見えますよね、

問題は例②です。明らかにおかしいでしょ。消耗品を17億円分も購入するなんて基本的にありえないです。

そうなると監査上は例②があやしいとにらみ、例②の仕訳に関する証憑をチェックしにいくことになります。

上記の仕訳はかなり単純化したために、例②は明らかにおかしく見えます。

ただ、実際に仕訳でおかしなことをやろうとしたら、もっと手の込んだことをするはずです。

貸借対照表損益計算書の数値は仕訳金額を集計したものです。

そのため、不正を行ったとしたら必ず仕訳上何かしらの痕跡が残ります。会計監査人はその痕跡を見つけようとします(ただ、繰り返しますが不正を発見することが会計監査人の仕事の目的ではありません)。

不正をする場合は、もっと巧妙に仕訳がきられるはずです。もしくは何の変哲もない仕訳がきられたのにも関わらず、裏で不正が行われている可能性もあります。

今回の日産のケースにおいて何かしら仕訳がきられていたのであれば、ゴーン氏もしくはその側近の偉い人が経理担当者に直々にこういう仕訳をきれと命じたのか、もしくは経理にゴーン氏の息がかかった人間がいて、その人が仕訳をきったか。さらには経理がゴーン氏に忖度して仕訳をきったのか、そもそも何も知らずに仕訳をきったのか、色々なことが考えられます。

結論としては、仕訳の切り方で会計監査人の発見可能性がかわってくる、ということが言えると思います。

 

なお、今回のケース(私的損失の転嫁)について、損失分を日産の現預金で転嫁していたとして、仕訳が何もきられなかった場合は、簡単に発覚するはずです。

会計監査人は期末監査時には必ず金融機関に残高確認を行うからです。

 

残高確認・・・監査人が金融機関に口座の残高を確認する手続き。金融機関と会社が結託して残高を偽る可能性があるため、監査人が直接発送し会社を経由せず直接監査人が回答を回収します。監査上、非常に強い監査証拠を考えられています。

 

その残高確認の回答と各金融機関の帳簿残高を突合する、という手続きを行います。

全ての金融機関に残高確認を行うのが基本ですが、場合によっては残高が大きい金融機関のみ行い、それ以外は金融機関から送られてくる残高証明書と突合するケースもあります。

何かしらの仕訳がきられていれば、帳簿残高と残高確認の回答金額は一致するので、そこからは異常(不正)は発見できませんが、仕訳をきらずにお金だけを支出していたのであれば、帳簿残高と残高確認の回答金額は合わないため、何かしら異常があると判断できます。もちろん回答金額が合わない合理的な理由があれば、それはそれでOKとなります。

 

というわけで、ゴーン氏の損失補填が現預金で行われており、仕訳が何もきられていないとすれば、さすがにそれは会計監査人が発見していたはずです。

 

以上、3回に分けて今回の日産の事件について書いてきましたが、会計士であれば当然そう思うよね、ということを書いたはずです。

現段階ではゴーン氏が本当に不正を行ったのか、不正の意図があったのか、よくわかりませんが、真実が明らかになることを祈るだけです。

 

そして日産が復活していくことを願っています。

だって、日産の株持ってるしさ・・・