今回の日産の件に関する一会計士の考察①

あのゴーンさんがやっちゃいましたね。

「やっちゃえ、日産」、ではなく、「やっちゃった、日産」になってしまいました。

矢沢永吉も泣いてますよ・・・

 

日本経済新聞の「私の履歴書」を毎日読んでいるのですが、以前ゴーン氏が「私の履歴書」を書いていました。

内容的にはあまり面白いものではありませんでしたが、いい話を書きつつ裏ではいろんな事をやっていたんですね。

 

さて、今回の件についてヤフコメ等で監査法人は何やってたんだ的なコメントが散見されます。監査についてよく知らない方々がコメントしている節も見られますが、一応監査の専門家としてコメントを残したいと思います。

なお、11月21日午前中までの新聞、TV等の情報を基に記載しています。

 

①有報の報酬減額記載

会計監査人は監査報告書で意見を表明します。大部分の会社は適正意見が出されますが、ここで監査報告書の「前文」及び「監査意見」の文言を見て下さい。なおここでは日本基準(連結)をベースに話をすすめます。

 

<前文>

監査法人×××は、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づく監査 証明を行うため、「経理の状況」に掲げられている○○株式会社の平成×年×月 ×日から平成×年×月×日までの連結会計年度の連結財務諸表、すなわち、連結 貸借対照表連結損益計算書、連結包括利益計算書、連結株主資本等変 動計算書、連結キャッシュ・フロー計算書、連結財務諸表作成のための基本とな る重要な事項、その他の注記及び連結附属明細表について監査を行った。

 

監査意見

監査法人×××は、上記の連結財務諸表が、我が国において一般に公正妥 当と認められる企業会計の基準に準拠して、○○株式会社及び連結子会社の平成 ×年×月×日現在の財政状態並びに同日をもって終了する連結会計年度の経営 成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示して いるものと認める。

<監査・保証実務委員会実務指針第 85 号 「監査報告書の文例」 金融商品取引法監査(年度監査) 連結財務諸表 より>

 

この2つを読んでわかることは、監査人は財務諸表に対して監査手続きを行い、財務諸表の数値が適正か否かについて意見を表明しており、有価証券報告書全体に対して適正か否かは表明していない、というかそこまで求められていないということ。

有価証券報告書でいうと「第5 経理の状況」以降のページ(一部除く)について監査人は監査を行い、意見を表明しているわけです。

したがって「経理の状況」以前のページについては、制度上監査対象外となります。

 

とはいえ、有価証券報告書は公衆縦覧されるものですので、「経理の状況」以前のページについて監査人が全くチェックしないわけではありません。

ただ、小さな会社であれば隅々までチェックするかもしれませんが、規模が大きい会社であれば細かくチェックするのは予算・時間の関係で難しいと思います。

 

少なくとも財務諸表の数値との整合性は確認します。

「企業の概況」で記載している売上高が損益計算書の売上高と異なっていたりしたら、めちゃくちゃ恥ずかしいです。前期の数値も必ずチェックするはずです。

 

で、ここで問題になってくるのが財務諸表の数値と関連がない記載です。

今回の事件で問題となった「報酬が1億円以上の役員」の記載もこれに該当します。

どうやって正しいか否かチェックするのでしょうか?

一義的には会計監査人には記載の正確性の責任が無いといえども、「経理の状況」以前のページがあまりにも間違っていたら恥ずかしいので、何かしらチェックはするはずです。

 

役員全員が1億円以上報酬をもらっていれば有報に記載した各役員の報酬額合計と、損益計算書販管費にある「役員報酬」が一致するはずです(ただし、損益計算書または販管費の注記で「役員報酬」が開示されないケースがあります)。

日産も役員全員が1億円以上の報酬を貰っていれば今回のような事件は起きなかったかもしれません。

ただ、役員全員が1億円以上の報酬をもらっている会社なんて皆無でしょう。

そうなると、該当者のみを記載することになるわけですが、誰が該当するかは会社が作成した内部資料を確認し、ちゃんと有報に記載されてるかチェックするしかありません。

その内部資料が正しいかどうかまでは会計監査人は担保できません。

今回も手続きとしては、その内部資料と有報の記載の整合性確認で終わっていたものと思います。

同業者としては最低限のことはやっていたと思います。

 

例えば「報酬が1億円以上の役員」の記載が監査対象であれば、役員の報酬一覧を入手し毎月の支払額(口座への振込額等)を一人ずつチェックするような手続きが必要になってきます。

が、上で述べたように「経理の状況」以前の全ページについて、そのような細かい手続きを行うのは時間及び予算的に無理だと思われます。そんなチェックをしていたら有報の開示が期日までに間に合いません。

 

一つ疑問に思うのは、内部資料を作った人がゴーン氏の報酬額が違っているのを知っていたかどうかです。

役員報酬の総額は株主総会で決まり、その配分の最終決定権者はゴーン氏だったということで、内部資料を作った人はゴーン氏の息がかかった人だったのかもしれません。

 

ということで長々と書きましたが、今のところ出ている情報だけで判断すれば、今回の日産の報酬の記載については監査法人には大きな責任は無いと思います。

役員報酬の支払いに関する仕訳が誤っていたとか、不正に仕訳がきられていたとかであれば監査法人にも何かしらの責任が生じるかもれません。

 

今回は日産の西川社長の記者会見時に出た3つの不正のうち有報の記載不正について思いを書きました。残り2つの不正についても後日ブログに書きたいと思います