投資に有用な情報とは(とある会計士の雑感)

もうすぐクリスマスですね🎅

今のところ特に予定は無いのですが、どう過ごしましょう。

ここ数年お付き合いしてる人もいなく、孤独なクリスマスには慣れているのですが、昨年は某百貨店でちょっとお高いクリスマスケーキを予約購入し、イブに独りで食べました。

今年はケーキの予約をしなかったので、当日どこかでケーキでも買おうかな~

 

一緒に食べてくれる人、どなたかいっらしゃいませんか?

 

さて、日産のゴーン事件で一躍脚光を浴びた有価証券報告書(以下有報)についてです。

 

有報は基本的に上場している会社が作成するものですが(上場していなくても作成しなければいけない場合もあります)、これは株主には直接は配布されません。

閲覧したい場合は金融庁EDINETもしくは、その会社のHP等で開示されます。

ちなみに、株主には株主総会前に招集通知とともに「事業報告」なるものが送付されます。

 

大雑把に言うと、事業報告は株主に対してのその1年間の会社の業績報告及び株主総会での決議議案の賛否判断資料という意味合いがあり、有報はもちろん業績報告という意味合いはあるものの、今後投資しようとする人向けの報告書といえます。なお、短信も有報と同じと考えてよいでしょう。

 

自分もかなり前から株式投資をやっているのですが、実は長い間、その会社の有報を見ることなく株を買っていました。

会計士になってからはさすがに株を買う前に少しは有報を見るようになりましたが、それでも有報の隅から隅まで見ることはありませんでした。

 

皆さん有報のどこを見て投資す判断をしているのでしょう?

会計士の自分が言うのもあれですが、有報のどこを見てるんですかね?

 

ちなみにですが、自分は以下の観点で判断しています。

①今後業績が伸びるか

→有報でチェックする情報:売上・利益の五期比較(主要な経営指標の推移)、当期のP/L・B/S

②世の中の流れ(新聞やTV、ネットの情報・評判)

株主優待があるか

 

①のとおり、有報の情報は隅々までチェックしているわけではありません。

もちろん、それぞれの投資スタイルによって有報の利用状況は変わってきます。

ファンダメンタルズ分析を行う方は、有報の色々な情報を使っているのだと思います。

特に機関投資家はP/L・B/S以外にも注記情報を細かくチェックしているのかもしれません。

 

でも、個人の一般投資家はそんなに有報の情報を使ってないんじゃないですかね。

今回のゴーン事件で問題になった役員報酬の情報ですが、ゴーン氏の報酬が高い・低いによって投資するかどうか判断する人ってあまりいないと思うんですよね。

もちろん虚偽記載はだめですよ、決められたことはちゃんと有報に記載しなければいけません。

でも、ゴーン氏の報酬が例えば年間億20円として、ゴーン氏の報酬が高い!だから俺は日産株は買わないもしくは売ってやる! な~んて人は少数だと思うんですよ。

そりゃ株主が文句を言う情報にはなります。でも役員の報酬の多寡が株の売り買いにつながるかは疑問です。

 

P/L・B/Sについて注記情報というものがあります。

P/L・B/Sの数値を補足する情報ですが、この情報も投資の判断に資する情報となっているのかどうか・・・

自分が上場会社の会計監査を担当していたとき、期末監査の時は毎年、この注記って誰が見るんだろう?と思いながらチェックをしていました。

 

例えば、税効果会計の注記で税率差異の情報を記載する場合があります。

※「法定実効税率税効果会計適用後の法人税等の負担率との間に重要な差異があるときの、当該差異の原因となった主な項目別の内訳」のことです

重要性がなければ記載する必要はありませんが、この情報を投資家が見てどう利用するんだろうと思っていました。これを理解するには間違いなく会計の知識、それもそれなりに高度な知識が必要です。

 

「おいおい、交際費等永久に損金に算入されない項目の割合がデカすぎるよ、こりゃこの会社の株買うのやーめよ」

って言う人がどれだけいるのでしょうか?

そもそも「交際費等永久に損金に算入されない」ってどういう意味?という方が多いのではないでしょうか。

 

機関投資家の方々であれば財務分析上使うデータなのかもしれませんが、これが投資判断に具体的にどう影響するのかは正直わかりません。

その他のデータと併せて判断するのかもしれませんが・・・

 

同じように退職給付の注記もそんなに意味があるとは思えませんでした。

原則法、簡便法合わせて細かく注記し過ぎなんじゃ?と思いつつ監査の作業をやっていました。

 

その他の注記事項も細かすぎると思われるものが結構あります。

注記については会計監査人の監査範囲であり、いわば飯の種です。

注記事項が増えれば増えるほど監査の工数がかかることになり、監査報酬に影響します。

そのため、会計監査人の本音としては注記が減る(監査対象が減る)のは反対のはずです。

 

実際に有報を利用して投資判断を行ってる人たちに、どの情報が重宝しているかアンケートをとってみたら面白いのではないでしょうか。

会計監査の対象外である有報の経理の状況以前の情報、そして会計監査の対象である経理の状況以降の情報(一部は対象外)、どの情報が役にたっているのか知りたくないですか?

 

一般に国際会計基準を採用すると有報の注記事項が増えると言われています。

今後、国際会計基準を採用する企業が増えると思われますが、その注記が本当に投資家の判断に資する情報なのかどうか、もう一度よく考える必要があるのではないかと思う今日この頃です。

 

あー、会計士のお偉い先生方に怒られそうなことを書いてしまいました・・・

 

 

 

 

 

 

 

ソフトバンク上場

かなり前から株をやっているのですが、自分はほぼ優待目当てでやっています。

なので短期で売買したことは今までのところありません。

 

監査法人に在籍していると独立性の問題があるため、株の購入に制限がかかったりします。

ただ、自分は監査法人在籍中はペーペー(下っ端)だったので、それほど厳しい制限はありませんでした。とはいえ、所属監査法人が監査を行っている会社の株は買わないようにはしていました。

 

監査法人を退職して自由に株の売買ができるようになったわけですが、最近はIPO株でちょっと儲けようかと思い、証券会社に応募をしているのですが、これがなかなか当選しません。

先日は珍しくIPO銘柄について補欠当選をしたのですが、その会社について色々調べてみると、公募価格より初値が落ちる可能性が高い! という書き込みが多かったため辞退しました。

結果として初値が公募価格より低かったため、辞退して正解でした。

 

さて、何故株の話を書き始めたのかというと、IPOでこの年末の大きな話題となった(なっている?)ソフトバンクの上場について書きたかったからです。

私、このソフトバンクIPOの抽選にめでたく?落選しました。

落選してよかったのかどうかは正直わかりませんが、公募価格1,500円で、初値は良くて1,550円~1,650円、悪くて1,200円程度かと個人的に思っています(あくまで勘です)。

 

タイミングが悪すぎましたよね。

ソフトバンクのせいではないにしろ起こってしまった通信障害。

そして米国に起因する中国製通信機器の排除問題。

そりゃ、当選しても辞退する人が多く出ちゃいますよ。な~んか不安ですもん。

でもって、SBI証券が何か変なこと?やっているようですし・・・

(自分はSBI証券に口座は全く開設しておらず当事者ではないため、今回SBI証券が行ったことについてはここでは詳しく書きません。興味がある方はGoogle先生にでも聞いてみて下さい)

 

自分の知人はSBI証券で?株当選したのですが、その後SBI証券から連絡があり、あーだこーだ悩んでいられました。問い合わせの電話をしようにも全く繋がらなかったそうです。

 

なんとなくですが、辞退者続出だったんじゃないかと推測します。

 

12月19日が上場日です。

どうなりますかね~

公募価格をちょっとでも超えれば御の字じゃないかな~

 

 

今回の日産の件に関する一会計士の考察③

今日の夜から寒くなるみたいですね、あーやだやだ。

と言いつつも、夏より冬の方が好きです。

 

さて、今回の日産の事件に関する3点目です。

 

③ゴーン氏による経費の私的支出

自分がTVや新聞等から得ている情報では、この件に関する情報があまりない気がします。

ゴーン氏の私的損失(17億円)を日産に転嫁していたという記事が出ていましたが、これが私的支出ということなのでしょうかね。

今回はこの私的損失の転嫁ということで話をすすめていきます。

 

ぶっちゃけ、この私的支出については、どのような手口で行われたのかが全くわからないため、非常にコメントしづらいです。

会社が被害を被っているというのであれば、何かしらの仕訳がきられていたと思いますので、発見できる可能性はあったと思いますが、仕訳の内容によって発見可能性が変わってきます。

話をものすごーく単純化して以下の仕訳をきったとしましょう。

例①

<借方>役員報酬 1,700,000,000円 / <貸方>現預金 1,700,000,000円

    (摘要)役員15人分報酬支払

例②

<借方>消耗品費 1,700,000,000円 / <貸方>現預金 1,700,000,000円

    (摘要)消耗品購入

 

上記の2つの仕訳をみてどう思いますか?

ここの会社は役員報酬が高額だ(1人1億円程度)、という認識があったとしたら例①の仕訳はそんなにはおかしくないように見えますよね、

問題は例②です。明らかにおかしいでしょ。消耗品を17億円分も購入するなんて基本的にありえないです。

そうなると監査上は例②があやしいとにらみ、例②の仕訳に関する証憑をチェックしにいくことになります。

上記の仕訳はかなり単純化したために、例②は明らかにおかしく見えます。

ただ、実際に仕訳でおかしなことをやろうとしたら、もっと手の込んだことをするはずです。

貸借対照表損益計算書の数値は仕訳金額を集計したものです。

そのため、不正を行ったとしたら必ず仕訳上何かしらの痕跡が残ります。会計監査人はその痕跡を見つけようとします(ただ、繰り返しますが不正を発見することが会計監査人の仕事の目的ではありません)。

不正をする場合は、もっと巧妙に仕訳がきられるはずです。もしくは何の変哲もない仕訳がきられたのにも関わらず、裏で不正が行われている可能性もあります。

今回の日産のケースにおいて何かしら仕訳がきられていたのであれば、ゴーン氏もしくはその側近の偉い人が経理担当者に直々にこういう仕訳をきれと命じたのか、もしくは経理にゴーン氏の息がかかった人間がいて、その人が仕訳をきったか。さらには経理がゴーン氏に忖度して仕訳をきったのか、そもそも何も知らずに仕訳をきったのか、色々なことが考えられます。

結論としては、仕訳の切り方で会計監査人の発見可能性がかわってくる、ということが言えると思います。

 

なお、今回のケース(私的損失の転嫁)について、損失分を日産の現預金で転嫁していたとして、仕訳が何もきられなかった場合は、簡単に発覚するはずです。

会計監査人は期末監査時には必ず金融機関に残高確認を行うからです。

 

残高確認・・・監査人が金融機関に口座の残高を確認する手続き。金融機関と会社が結託して残高を偽る可能性があるため、監査人が直接発送し会社を経由せず直接監査人が回答を回収します。監査上、非常に強い監査証拠を考えられています。

 

その残高確認の回答と各金融機関の帳簿残高を突合する、という手続きを行います。

全ての金融機関に残高確認を行うのが基本ですが、場合によっては残高が大きい金融機関のみ行い、それ以外は金融機関から送られてくる残高証明書と突合するケースもあります。

何かしらの仕訳がきられていれば、帳簿残高と残高確認の回答金額は一致するので、そこからは異常(不正)は発見できませんが、仕訳をきらずにお金だけを支出していたのであれば、帳簿残高と残高確認の回答金額は合わないため、何かしら異常があると判断できます。もちろん回答金額が合わない合理的な理由があれば、それはそれでOKとなります。

 

というわけで、ゴーン氏の損失補填が現預金で行われており、仕訳が何もきられていないとすれば、さすがにそれは会計監査人が発見していたはずです。

 

以上、3回に分けて今回の日産の事件について書いてきましたが、会計士であれば当然そう思うよね、ということを書いたはずです。

現段階ではゴーン氏が本当に不正を行ったのか、不正の意図があったのか、よくわかりませんが、真実が明らかになることを祈るだけです。

 

そして日産が復活していくことを願っています。

だって、日産の株持ってるしさ・・・

 

 

 

 

今回の日産の件に関する一会計士の考察②

さて、日産のゴーン元会長に関する疑惑の残り二つのうちの一つについてです。

 

②会社資金の私的流用

これは既に記事になっているように、海外子会社に自宅として海外の高級住宅を購入させていたことが主な内容だと思います。

 

これが会計監査で見つけられないか?

答えとしてはかなり難しいのではないかと考えます。

 

大きな企業グループの会計監査を行うとしましょう。

ここでは持株会社があってその下にグループ企業として子会社や孫会社が何十社もあると仮定します。

現在は連結会計が主ですので、会計監査人は持株会社の会計監査を行っただけでは企業グループ全体の連結決算の妥当性について意見を表明することはできません。

当然、子会社や孫会社の会計監査を行い、企業グループとしての連結決算の妥当性をチェックする必要がありますが、何十社あるグループ企業全ての会計監査を行うことは監査資源的(時間・人員・予算)に無理です。

 

そのため、会計監査ではリスクアプローチという手法をとります。

重要性の高い子会社等を「重要な拠点」として選定し監査の対象とします。

(なお、例えば内部統制監査(決算・財務報告プロセス)では連結ベースの売上高等の一定割合(おおむね2/3)に達するまでの事業拠点(子会社)を評価対象とする、という基準があります。)

リスクアプローチというのは、簡単に言えばリスクが高いと思われるところについて重点的に監査手続きを行うというものです。

 

例えば、会議の時間が1時間しかとれない、でも議題は10個もあって1時間じゃ終わらない。この場合どうしますか?

重要性の高い議題から話し合い、1時間のうちに議題をすすめるだけすすめる。重要じゃない議題はパスする。

きっとこうなるでしょう。これを会計監査に当てはめたのがリスクアプローチです。

 

グループ企業についても、リスクが高い子会社、高くない子会社に分けられるはずです。

 

では何をもってリスクが高いと判断されるのか・・・

一般的には売上です。

財務諸表を見られる方も、損益計算書のどこを最初に見ますか?

最終利益である当期純利益を最初に見るという方もいるかと思いますが、気になるのはやはり売上高ではないでしょうか。前期と比べて売上が減ったとか、売上が5期比較で上昇基調にあるとか、投資家も経営者も我々会計士も気になるのが売上です。

そうです、なので売上にはリスクがあると判断されるのです。

経営者が不正する可能性が高いのが売上です。

 

リスクアプローチにせよ内部統制の基準にせよ、売上の多寡で会計監査を行うのか判断するのが基本となります。

もちろん、売上以外でリスクが発見されれば、それに応じて監査対象を選ぶことがあります。

 

日産の話に戻ります。

日産が海外に子会社を設立しました。新聞の記事によると、この子会社、営業活動は全くやっていなかったそうな。

そうなると売上が計上されない→重要性がない→監査の対象外となる、という図式になります。

監査の対象外になると、余程のことがない限り細かい手続きは行われません。重要性が低い子会社等に対して細かい監査手続きをするのであれば、もっともっと重要性の高い子会社等に対して監査手続きをやるべきだからです。

 

そうなると今回の日産の海外子会社もおそらく、重要な拠点ではなかったと思われます。

そうなると今回の日産のケースでは会計監査人がこの会社に監査手続きを行っておらず、発見するのは難しかったのではないでしょうか・・・

 

と、考察①・②でも会計監査人が今回の事案を見つけるのは難しい旨を書きました。

一般投資家からしたら、監査人何やってるんだ!という思いがあるのは重々承知しています。

が、会計監査には限界があります。警察のような強制捜査や調査ができるわけでもなく、正直巧みに会計操作されたら発見が難しい面があります。

よく言われますが、会計監査の目的は不正を発見することではありません。

グループの売上高が6兆近くある日産で、20億・30億の不正があっても財務諸表への影響はそれほど大きくないと判断せざるをえません、あくまで監査上はですが。

社会的には影響は大きいですが。

 

自分も株で投資を行っているので投資家さんの気持ちもわかります。

でも、会計士としての立場から言うと、会計監査には限界がある、ということだけは理解していただきたいです。

 

今後、会計監査にAIが導入されれば、このような状況は変わるでしょう。

 

※11月26日の日経夕刊に、問題となっている海外子会社について監査法人が懸念を示していた旨の記事が出ていました。監査法人も気にはしていたんですね。

 

 

 

 

 

今回の日産の件に関する一会計士の考察①

あのゴーンさんがやっちゃいましたね。

「やっちゃえ、日産」、ではなく、「やっちゃった、日産」になってしまいました。

矢沢永吉も泣いてますよ・・・

 

日本経済新聞の「私の履歴書」を毎日読んでいるのですが、以前ゴーン氏が「私の履歴書」を書いていました。

内容的にはあまり面白いものではありませんでしたが、いい話を書きつつ裏ではいろんな事をやっていたんですね。

 

さて、今回の件についてヤフコメ等で監査法人は何やってたんだ的なコメントが散見されます。監査についてよく知らない方々がコメントしている節も見られますが、一応監査の専門家としてコメントを残したいと思います。

なお、11月21日午前中までの新聞、TV等の情報を基に記載しています。

 

①有報の報酬減額記載

会計監査人は監査報告書で意見を表明します。大部分の会社は適正意見が出されますが、ここで監査報告書の「前文」及び「監査意見」の文言を見て下さい。なおここでは日本基準(連結)をベースに話をすすめます。

 

<前文>

監査法人×××は、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づく監査 証明を行うため、「経理の状況」に掲げられている○○株式会社の平成×年×月 ×日から平成×年×月×日までの連結会計年度の連結財務諸表、すなわち、連結 貸借対照表連結損益計算書、連結包括利益計算書、連結株主資本等変 動計算書、連結キャッシュ・フロー計算書、連結財務諸表作成のための基本とな る重要な事項、その他の注記及び連結附属明細表について監査を行った。

 

監査意見

監査法人×××は、上記の連結財務諸表が、我が国において一般に公正妥 当と認められる企業会計の基準に準拠して、○○株式会社及び連結子会社の平成 ×年×月×日現在の財政状態並びに同日をもって終了する連結会計年度の経営 成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示して いるものと認める。

<監査・保証実務委員会実務指針第 85 号 「監査報告書の文例」 金融商品取引法監査(年度監査) 連結財務諸表 より>

 

この2つを読んでわかることは、監査人は財務諸表に対して監査手続きを行い、財務諸表の数値が適正か否かについて意見を表明しており、有価証券報告書全体に対して適正か否かは表明していない、というかそこまで求められていないということ。

有価証券報告書でいうと「第5 経理の状況」以降のページ(一部除く)について監査人は監査を行い、意見を表明しているわけです。

したがって「経理の状況」以前のページについては、制度上監査対象外となります。

 

とはいえ、有価証券報告書は公衆縦覧されるものですので、「経理の状況」以前のページについて監査人が全くチェックしないわけではありません。

ただ、小さな会社であれば隅々までチェックするかもしれませんが、規模が大きい会社であれば細かくチェックするのは予算・時間の関係で難しいと思います。

 

少なくとも財務諸表の数値との整合性は確認します。

「企業の概況」で記載している売上高が損益計算書の売上高と異なっていたりしたら、めちゃくちゃ恥ずかしいです。前期の数値も必ずチェックするはずです。

 

で、ここで問題になってくるのが財務諸表の数値と関連がない記載です。

今回の事件で問題となった「報酬が1億円以上の役員」の記載もこれに該当します。

どうやって正しいか否かチェックするのでしょうか?

一義的には会計監査人には記載の正確性の責任が無いといえども、「経理の状況」以前のページがあまりにも間違っていたら恥ずかしいので、何かしらチェックはするはずです。

 

役員全員が1億円以上報酬をもらっていれば有報に記載した各役員の報酬額合計と、損益計算書販管費にある「役員報酬」が一致するはずです(ただし、損益計算書または販管費の注記で「役員報酬」が開示されないケースがあります)。

日産も役員全員が1億円以上の報酬を貰っていれば今回のような事件は起きなかったかもしれません。

ただ、役員全員が1億円以上の報酬をもらっている会社なんて皆無でしょう。

そうなると、該当者のみを記載することになるわけですが、誰が該当するかは会社が作成した内部資料を確認し、ちゃんと有報に記載されてるかチェックするしかありません。

その内部資料が正しいかどうかまでは会計監査人は担保できません。

今回も手続きとしては、その内部資料と有報の記載の整合性確認で終わっていたものと思います。

同業者としては最低限のことはやっていたと思います。

 

例えば「報酬が1億円以上の役員」の記載が監査対象であれば、役員の報酬一覧を入手し毎月の支払額(口座への振込額等)を一人ずつチェックするような手続きが必要になってきます。

が、上で述べたように「経理の状況」以前の全ページについて、そのような細かい手続きを行うのは時間及び予算的に無理だと思われます。そんなチェックをしていたら有報の開示が期日までに間に合いません。

 

一つ疑問に思うのは、内部資料を作った人がゴーン氏の報酬額が違っているのを知っていたかどうかです。

役員報酬の総額は株主総会で決まり、その配分の最終決定権者はゴーン氏だったということで、内部資料を作った人はゴーン氏の息がかかった人だったのかもしれません。

 

ということで長々と書きましたが、今のところ出ている情報だけで判断すれば、今回の日産の報酬の記載については監査法人には大きな責任は無いと思います。

役員報酬の支払いに関する仕訳が誤っていたとか、不正に仕訳がきられていたとかであれば監査法人にも何かしらの責任が生じるかもれません。

 

今回は日産の西川社長の記者会見時に出た3つの不正のうち有報の記載不正について思いを書きました。残り2つの不正についても後日ブログに書きたいと思います

 

 

 

 

公認会計士試験合格発表と就職

寒くなってきましたね。

皆様いかがお過ごしでしょうか。

 

本日11月16日に公認会計士試験の合格発表(論文式)がありました。

合格された皆様、おめでとうございます。

残念だった方々、また来年があります。つらいとは思いますが、試験勉強を続行するのか、撤退するのか、日がたって落ち着いたら考えましょう。

 

さて、合格された方の大部分は監査法人へ就職していくものと思われます。来週から監査法人の面接なんかが本格化するんでしょうね(もしかしたら今日から?)。

 

自分も合格してからうん十年ですが、この会計士試験合格発表の時期にいつも思うことがあります。

 

①大手監査法人の採用活動                                      自分も合格後に大手監査法人に入社しましたが、例年、合格者の大部分は大手監査法人を目指すのかと思います。                                 この大手監査法人の採用活動ですが、あまりにも計画性がなさ過ぎます。                     去年ちょっと多く採用しすぎたから、今年はそんなに採用しないとか。                     今年はあっちの法人がそんなに採用しなかったから、うちの法人が多く採用できたとか。                                                毎年の採用人数にブレがありすぎます。                                             実際に大手監査法人にいたときは、毎年のように採用担当・人事部は馬鹿か?と思っていました。自分以外でもそのように言っている人がかなりいました。                  

後先考えずに採用できるときにできるだけ採用する、というのが大手監査法人の方針で、これはもうずっと変わってないですね。

 

②就職先                                               ①でも書きましたが合格者の大部分は監査法人へ行きます。中にはコンサルティング会社や一般企業へ就職される方もいます。                                             どうしてもコンサルをやりたいとか普通の会社の経理をやりたい、というのであればしょうがありませんが、ぶっちゃけコンサルの仕事や経理の仕事は会計士の資格がなくてもできるわけですよ。                                        そりゃ会計士の資格があれば箔がついたり、会計士試験で勉強したことが役にたつこともあると思いますが、会計士資格が絶対必要というわけではありません。                 その点、会計監査は監査法人独占業務です。監査法人にしかできません。                    

そう考えると、合格者の方には監査法人に入って1年でも2年でも会計監査の仕事に携わってほしい。コンサルや事業会社の経理に行くのはそれからでも遅くないです。

独占業務である会計監査業務を経験するべきですよ、合格者の皆様(私、監査法人の回し者ではないですよ)。 

                                                     逆にコンサルや事業会社の経理を経験してから監査法人に入るのはあまりお奨めしないです(転職時の年齢や勤めた年数にもよりますが)。                             監査法人に入るのはできるだけ早い年齢の方がいいです。               何故かって?                                   それは、監査法人に入るとそれまでの社会人経験があまり考慮されないからです。      例えば監査法人に10年勤務して、転職して別の監査法人に就職した場合、前の監査法人の10年が考慮されて、いきなりシニアだったりマネージャーで採用されるケースはありますが、コンサルや事業会社に10年勤務して監査法人へ転職した場合、その10年はほとんど考慮されません。入社したら1番下っ端のペーペーかよくて2・3年目としての扱いになるはずです。だって監査の経験がないから。  

そう考えると、独占業務である会計監査を経験して知識や経験値を積んでから、コンサルや事業会社へ行った方が絶対いいと思うのですが・・・  

とまぁ、コンサルや事業会社の方が見たら 怒りそうなことを書いてしまいました。

企業内会計士も増えている昨今、合格者の皆様が満足できる就職先を見つけられるようお祈りしております。                                      

ただし、AIの発展に伴い、会計監査業務は間違いなく人手がいらなくなります。

おそらく後2~3年もすれば人手があまりかからない監査が増えていくと思います。

これについては後日ブログに書きたいと思います。

 

何はともあれ合格者の皆様、おめでとうございました。                                                                                       

M&Aとのれん償却

パッとしない天気が続きますね。

 

先日、国際会計基準審議会(IASB)がのれんの定期償却に関する検討に入ったとの報道がなされました。

 

個人的には、のれんは年数はともかく償却すべきだと思っているのですが、IFRSで償却することになったらソフトバンクなんかはどうするんでしょうね・・・

 

これに関し週刊エコノミスト2018年10月23日号で記事が書かれていました。     その中で会計評論家の細野祐二氏が以下のようにコメントしています。      「IFRSを採用する企業では、経営者が無謀なM&Aに走るリスクが伴う。そのブレーキ役が本来、監査法人や取引銀行だが、機能不全に陥っている。すなわち、1年間に数億円単位の報酬をもらう監査法人には、M&Aを止められない」。

 

これを読んで自分は違和感を感じたのですが・・・

簡単に言ってしまうと、企業が被買収企業をいくらで買うのかはあくまで経営判断であり、監査法人にはM&Aについての助言や提言はできますが、M&Aを止めるまでの権限は無いはずだからです。

もちろん、違法な手法で買収をしたり、会計ルールに反した方法で買収を行おうとした場合は監査法人は全力でM&Aを止めにいかなければいけません。

しかし、適法にM&Aを進めていった場合、最終的に買収価格を決めるのは経営陣です。経営陣が決めた買収価格を監査法人がひっくり返すことができるわけがない。そんなことしたら監査法人経営判断・企業経営をしていることになってしまうからです。

もちろん提言・助言はできるので、                                「この買収価格は高すぎやしないですかね」とか                          「将来的にこの企業こんなに儲かるんですかね」                        くらいは言えます。でも、監査法人が                                                                                   「この買収価格はありえない。こんなの認められない」               とは言えないと思います。

                                       繰り返しますが、買収価格自体は経営判断だから。 

 

もちろん、助言・提言の言い方でM&Aにストップをかけられる可能性はあります。

が、なかなか難しいのではないでしょうか。

                        

週刊エコノミストを読んで、報酬を数億円もらっているからM&Aを止められないと言うのは違うんじゃないかと思った次第です。